■気の散った午後
いつ書いたかわからないメモに,Aerol (男) とある。ランダムハウス英和辞典からの抜書きらしい。
綴りの漢字から「エロル」と読みそうだし,もしかしたら大昔の俳優「エロール・フリン」のエロールかもしれない――と推定して調べたら大ハズレだった。
エロール・フリンの綴りは Errol Flynn であった。
個人名の Errol は
(1) 地名に由来するスコットランドの姓名を個人名に転用したもの----H&H 説
(2) Earl (♂)の変形----LR, DP 説
(3) [Latin] wandering----LR 説
等,語源説がいくつかある。
また,『姓名辞典』で Errol を調べると,
In England from OE Eoforwulf, in Scotland from Errol (Perth).
とあった。イングランドでは古英語名 Eoforwulf 由来だとしてある。
『姓名辞典』は語源の語意を書いてあることが多いのだが,残念ながら Eoforwulf に関しての説明はナシである。仕方ないので推定する。
多分 Eoforwulf の分割は Eofor-wulf であろう。前半要素は boar「猪」,後半要素は wolf「狼」であろう。猪や狼はゲルマン系の古代人名によく現れる要素である。(→ Ebba, → Eberhard, → Everilda, → Averil, → Ethelwulf, → Adolf, → Wulfric)
と,このあたりで気が散った。
Eber- の含まれる姓名といえば Eberbach (エーベルバッハ)だ。漫画『エロイカから愛をこめて』(青池保子・秋田書店)に登場する人物の姓名として,一部の人間に有名である。(実在の姓なのかは確認していない。ドイツの地名としては実在する) 語意は「猪+川」なので,日本姓なら「猪川」に相当するだろう。
『エロイカより愛をこめて』とは,泥棒貴族のイギリス人とNATO情報部のドイツ軍人が――「ドリアン・レッド・グローリア伯爵」と,「クラウス・ハインツ・フォン・デム・エーベルバッハ少佐」――が,国際的事件に関わるコメディ・サスペンスである。
彼らは互いを「伯爵」「少佐」と呼び合うが,が,一体何語で会話しているのやら。
少佐は変態趣味の伯爵を嫌っているので,わざわざ相手に合わせて英語で会話しそうにない。
伯爵は伯爵で優雅な自己中だから,ドイツ語がしゃべれても英語で通しそうだ。
きっと各人,相手の外国語を完全に聞き取っても,受け答えは自国語でしているに違いない。
そういえばこの漫画にはもう一人の大物スパイ「仔熊のミーシャ」(ロシア人)も登場するが,これも相手に合わせてドイツ語や英語をしゃべりそうにない。彼らが一堂に会すと,英語とドイツ語とロシア語が飛び交って殺伐とするのかもしれない。
気が散ったのを反省し,(3)説について考えてみることにする。この説は LR しか載せていないようだ。語意説明からすればラテン語 errō (errāre)「放浪する,迷い歩く,思い違いをする,誤る」が語源と考える説だろう。しかし何か納得できない,胡散臭いものを感じる。最後の L はどこから湧いた。
ラテン語 errō (errāre) の綴りと語意で見当がつくように,この言葉は英語の error ,そして日本語の「エラー」の語源だ。直接の語源はラテン語
error, errōris「迷い歩くこと,放浪,迷路,過失」だが,error, errōris が errō に由来する。
自分の子にわざわざ「さまよう,誤る」なんて語意の名前を付けるかなぁ。
と,ここで『羅和辞典』の errō の一項目下が目に付いた。
errō2, ōnis, m. [errō1] 1 放浪者. 2 遊星
いたわ,そういう親。
「遊☆戯☆王5D's 」(TVアニメーション・テレビ東京系)に,「不動遊星」という主人公が登場する。
調べてみると何かの粒子にちなんでの命名らしい。私はごく最近このアニメを飛び飛びで視聴するようになったので,最初の方の話を知らないのだ。
遊星(=惑星)は空をさ迷うように動くからそう名づけられたのだろうに,姓は「不動」だもんな。
冗談がきつい。
主人公の友達の名前はクロウ・ホーガンだし。
こんな名前であるからには,カードを強請り取ろうとする巨漢と橋の上でデュエルするしかあるまい。
もう放映済みかな。
……気が散りすぎたので文書作成を終了することにした。
[2010.2.4追記]
errō2, nis, m. [errō1] 1 放浪者. 2 遊星
を、
errō2, ōnis, m. [errō1] 1 放浪者. 2 遊星
に修正しました。
[注]
「クロウ・ホーガン」→橋の上で……
のあたりは,九郎判官義経(つまり牛若丸)が武蔵坊弁慶と「京の五条の橋の上」で戦った,という伝説に拠った妄想です。
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Last update 2010/02/04