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Dete 謎の名前


『アルプスの少女ハイジ』のWikipedia を読んでいたら,ハイジの叔母デーテのドイツ語綴りが Dete と書いてあった。
 この名は正体不明。

 ハイジ (Heidi) が Adelheid の「スイスドイツ語 (Swiss German) の愛称形」であるからには,Dete もスイスドイツ語による変化を受けた何かの名,だろうと思われる。しかし不明。

 Dete の原形として可能性がありそうなのは Theodegunde (♀) ,Theodelinde (♀) ,Dietlinde (♀) 等,ゲルマン語由来で people の意を持つ名だ。(theode- , Diet- の要素は Theoderic の対照表を参照)

 また,Theda (♀) かもしれない。その場合はゲルマン由来の他に,Theodora (♀) や Theodosia (♀) のギリシャ由来の可能性も出てくる。

 さらに綴りから考えると,Deodata (♀) 等のような,ラテン語 datus (語意 given) 由来の要素を含む名の短縮形かもしれない。

 結論は,つまり不明。
「Dete German name」とかネット検索してみてもほとんど情報が得られない。
 ハイジの中で「なんかいまいちハタ迷惑な叔母」の名として使われたので嫌がられ,使用が廃れたのではないかと邪推したくなる。

 しかしデーテは客観的に見ると悪人ではない。悪人なら姉夫婦の遺児を養ったりしないで教会の前にでも捨ててしまうだろう。クララの遊び相手の求人ワクにハイジを素早く突っ込んだのも,非難されるようなことでもない。親なしの貧乏人の子供が,衣食住に困ることなく遊んで暮らせるというのは,夢のような幸せだったはずだ。
 ただハイジにとっての幸せはアルプスで暮らすことだったというだけだ。


  theode- 要素(またはその変化形) 由来のドイツ語名に Dieter (♂) (ディーター) がある。
 ドイツ語的にはごく普通の伝統名だろう。

 しかし現代英語 dieter には「ダイエットする人」の意味がある。(diet + er)
 英語の diet はギリシア語 diaita (生活習慣,摂生) が語源で,基本的には「食品」の意味。ゲルマン語由来の Dieter とは何の関係もない。

 アメリカに移住したドイツの肥満児がたまたま Dieter という名だったら,「あいつあの体で dieter だってよ。プッ」とか陰口を叩かれて苛められたりしないかと気になってしまう。


 ところで Wikipedia によると,ヨハンナ・スピリの Heidi は既存小説を下敷きにしたものだとする研究が発表された。その小説はヘルマン・アーダム・フォン・カンプ作の

『アルプスの山から来た少女アデライーデ(Adelaide, das Mädchen vom Alpengebirge)』(1830)

 だそうだ。

 どの程度の下敷き具合なのか読み比べる機会はなさそうだが,その小説が Heidi (1880) の元ネタだと考えられるだけの類似点があるらしい。
 多分スピリはこの元ネタ本を読んでいるのだろう。Adelaide を Heidi にしたのは「種本があります」という表明だったかもしれない。
 または子供の頃に読んで忘れ,ある時それを自分の心から湧き出た物語のように錯覚した結果,Adelaide (= Adelheid =Heidi) をそのまま使ってしまったように感じられる。
 悪意の盗作ならバレないように主人公の名前は変えておくだろう。

 面白いのは,スピリが題名に使わなかった「アルプス」と「少女」の言葉が,なぜか日本で自然現象的に付け加えられたことだ。
 1934年に Heidi の邦訳が岩波文庫に入った際,『アルプスの山の娘(ハイヂ)』と題されたのだ。
 訳者の野上彌生子,または岩波文庫の編集者は,冥界からの電波でも受信したのだろうか。

[記] 2013/12/14


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