■アーデルが好き
1984年頃，『アメリカ人名事典』の参考文献から The Oxford Dictionary of English Christian Names 3rd Edition を見つけた。これを読めば人名についてもっと詳しいことがわかるんじゃないかと思い，紀伊国屋新宿本店の洋書フロアに足を運んだ。確か洋書フロアに入ったのはその時が初めてだった。ごく普通に棚に並んでいて，買えたのがすごく嬉しかった。
当時は現在よりも果てしなく英語判読能力が低かったので，英文だけの辞典を読むのはもの凄く苦労した。なにしろ単語がわからないのでそのたびに辞書を引かなければならない。青息吐息で4ページ目の
Adelaide の項まで到達した。
Adelaide は『アメリカ人名事典』にも記載があったので，わりとスムーズに読み進めた。
Old German Adalhaid or Adalheidis, compound of athal ‘noble’ and haidu ‘kind’ , ‘sort’ (＝English -hood)...(中略)...(whence English Alice q. v).
このへんまでは『アメリカ人名事典』と同じことが英文で書いてあるだけだった。(『アメリカ人名事典』がこの辞典を参考にしているのだから当然だ)
しかし，4-5行目で世界が広がった。
Adelaide is the modern French version of German Adelheid, (以下略)
アーデルヘイド? アーダルハイド……これ，アーデルハイドだ。
ハイジだ。
ロッテンマイヤーさんの怒鳴り声だ!
アリスとハイジは語源が一緒だったんだ!
まあ，ドイツ語的なカナ表記は「アーデルハイト」だったのだが，その時は知らなかった。
(*アニメ『アルプスの少女ハイジ』の中では，厳格な女執事のロッテンマイヤーさんがハイジを「アーデルハイド!!!!」と呼びつけていた。今思い出すと訛っている)
そんな経験があったからか，それ以来「アーデル」や「エセル」(Ethel) 等の人名要素が大好きだ。
そして先日，Weblio 辞書で「アーデルボリ」を見つけた。綴りを見ると Adelborg だった。
どこの国でこういう発音なんだろうと検索して，「ルイーズ・アーデルボリ」(Louise Adelborg, 1885-1971) を発見した
(エーデルボーグ，エーデルボルグの表記もある)。
スウェーデン王家御用達の老舗陶器メーカー，「ロールストランド」のデザイナーとして知られる人物らしい。彼女の作品の Swedish Grace
を輸入業者のサイトで見たが，心惹かれる良いデザインだった。
Adelborg 。後半は Ingeborg (♀) 等の -borg に見える。姓名として使用されているが，元々個人名ではないだろうか。そして Adel が Ethel に対応する要素だから，Ethelburga (♀) と同系のはずだ。
このように考えてから Nordic names Wiki を見たら，予想したことが全部書いてあってちょっとがっかりした。このサイトはゲルマン系の人名に「2要素合成名」が多いことをうまく利用し，「要素」＋「要素」で人名を説明するという超・機能的な編集になっており，非常にわかりやすい。あくまでも素人から見た感想だが，ゲルマン系人名ならこのサイトを見れば間違いなさそうな感じがする。
Ethelburga の名を持つ聖人は3-4人いるが，そのうちの一人 St. Ethelburga of Faremoutier(s) (?-664)
はファルムティエ(現在フランスの町) の修道院長だったので，Albierge というフランス語表記がある (ネット検索によると Edelburge
とも書かれるらしい)。
彼女はイースト・アングリア王 Anna の娘で，姉妹の Etheldreda (「年の差の問題」のエセルドレダ)，Sexburga, Withburga と共に聖人となっている。
[St. Ethelburga of Faremoutier と St. Ethelburga of Faremoutiers の両方の表記が存在する。『聖人事典』では -moutier になっているが，フランスの地名としては Faremoutiers らしい。首都パリから東に50キロほど離れたところにある]
Adelborg, Ethelburga, Albierge と，綴り的には無関係に見える人名が，基本的にアーデル系の人名であることにうっとりしてから，Swedish Grace の商品検索をした。
ローズのマグカップはいつか買いたい。
[記] 2013/11/30
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