■年の差の問題
聖エセルドレダ (Etheldreda) の伝説。
彼女はノーサンブリアの王子エグフリス (Egfrith) と結婚したが,夫との夫婦生活を拒んで修道院に入ったという。
エセルドレダとエグフリスの結婚は政略的な理由によるものだった。エグフリスは結婚当時15才の少年で,エセルドレダより数歳年下であった。エグフリスは宗教上の理由で処女を守りたいというエセルドレダの意志を認めたが,12年後になって夫婦関係の正常化を迫った。
そのためエセルドレダは夫を捨てて修道院に入り,673年,イーリーに修道院を建てた。
彼らの結婚は660年,そしてエグフリスが王位を継いだのが670年であるらしい。『聖人事典』とネット情報を比較したが,エグフリスの生年が645年頃だったのは一応定説になっているようだ。
しかしエセルドレダの生年については諸説あるらしく,『聖人事典』では「エグフリスの数歳年上」,ネットでは「636年」,そして『ヨーロッパ人名語源事典』(261ページ)では生没年を(630?-679)としてある。
「630年? 説」だと15歳差になってしまう。だからエグフリスが夫婦生活を迫った672年,エセルドレダは42歳でエグフリスは27歳だ。
ここまで年の差があると,エグフリスの心中を妄想してしまう。
「年老いた飾りものの妻が心底邪魔になって来た。相手の一番嫌がることを迫って見よう。
きっと自分から進んで出て行ってくれるはず。そうすれば再婚できるし。
ああ,でも,もし万が一オッケーされたらどうしよう! 自分が迫ったからには絶対実行しなきゃだし! 怖い怖い婆さん怖い」
……と考えて内心恐れおののきながら,夫婦の営みをさせろと迫ってみた……とか……かな?
『聖人事典』の説の「数歳差」くらいだとロマンチックな悲劇の香りがしないこともない。
政略で嫁いできた年上妻を少年は愛してしまうが,妻は信仰のために処女を守り続けた。10年以上の長い月日を耐えた夫はある日――
みたいな昼メロ的妄想も可能だ。
でも15歳も年が離れてしまうと,男のほうが熟女好みの変態みたいな感じになるから,美しいドラマは想像できなくなる。
エセルドレダの真実の生年はいつだったんだろうか。
[記] 2011/2/27
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