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マディソンと紺色カバン


 大分前の事だが,メールが届いた。
「Madison という『女性名』が2005年USAの命名ベスト3に入っていた。おたくのサイトにも載せるべきだ」
 という内容である。

 Madison は本来「姓名」で,son of Matthew (Matthew の息子)または son of Maud (Maud の息子)の意を持つ。
 男性名にも転用されるが,常用されるほどではなかったらしく,古めのマトモ系な個人名辞典に記載がない。
 私の手持ちの本では Name Your Baby (Lareina Rule, 1963) ,From Aaron to Zoe (Daniel Avram Richman, 1993),First Names (David Pickering, 2000) の3冊だけに載っている。Rule と Richman は男性名として,Pickering は男女共有名として説明している。

 男性個人名としてもあまり使われない Madison が,突如「女性個人名」として台頭したのだとしたら,何か強力な起爆剤が必要だったはずだ。

 そもそも語意からして「~の息子」なのだ。son には「子孫」等の意味もあるが,第一の意味は「息子」だし。
 それを女性名に使うってのは,どうなのよ。
 日本で言えば「高雄」とか「正男」とか「一郎」とかを女の子につけるのと同じようなものではないだろうか。

*現代日本の親の中には,娘に「吾郎」とか命名する人がいるらしい。「DQNネーム」で検索すると,その手の事例を説明したサイトが探せるかもしれない。

 Madison を女性名に使った例として思い出すのは,1984年のディズニー映画『スプラッシュ』である。
 この映画のヒロインは人間に変身した人魚。人魚語の名前は人間に発音できない。そこで仮の名として,適当に目に止まった Madison を選ぶ。確かこんなやりとりで名前が決まる。

ヒーロー/「マディソン? マディソンは通りの名前だよ(困惑顔)」
ヒロイン/「いいの(笑顔)」
ヒーロー/(本人が気に入っているなら,まぁいいか)

 この映画を子供の頃に観た人は,「マディソン=女性名として使える」と感じてもおかしくないだろう。その世代が大人となり,自分の子に名を与える時,Madison を選んだ可能性はあるだろう。

 しかしこの映画をある程度の年齢になって観た人は,ヒーローと同様に「Madison は地名か姓名だろう。女性名として奇妙だ」と感じたのではないか?

 また,女性名 Madison は「架空世界の中の異例な命名」であって,現実に自分の娘を Madison と名づけるなど考えられない,という感覚があったのではないか?

 だから Madison が現実世界で女性名として台頭するのにやや時間がかかり,2005年あたりで使用数が増えて注目を集めたのではないか?

 妄想は広がるが,真実は不明。

 Madison が女子名として受け入れられているとしたら,雰囲気が似ている Alison の影響があるのではないかと妄想する。
 女性名の Alison は Alice の古代フランス語形 Aalis, Aliz + 指小辞形語尾 -on である。
 原形由来の -s と指小辞形語尾 on がくっついて Alis-on なのだ。Ali-son ではない。


 ところで Madison Avenue と Madison Square Garden は第4代合衆国大統領 James Madison (1751-1836) に因んで名づけられたそうだ。

 1972~73年頃,私の周辺で,MADISON SQUARE GARDEN と書かれた紺色のスポーツバッグが流行した。カマボコを厚切りにしたような形のバッグである。
 同級生が数人このバッグを持っていたため,私の頭には「マディソン=紺色カマボコ鞄」という図が焼きついた。

 そしてその約10年後に『スプラッシュ』を観た。
 ヒーローがマディソンマディソンと呼ぶたびに,私は脳裏から紺色カバンの幻影を振り払うのに苦労してしまった。

[2022年追記] 「30年ほど前」と書いてある箇所を「1972~73年頃」に変更しました。
思いがけなく長生きしたなぁ。あれから50年も経過したんだ。


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