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語感の問題
Bertha, Greta, Stephanie


 かなり昔,アメリカ製作らしきテレビドラマを見ていた。家族モノのテレビシリーズの一話のように見えたが,突発的に,途中から視聴したので題名がわからない。

*作詞のイメージが涌かないと困る青年。つきあった女性の名を入れてみたらと勧める少年(ませている……)。

青年:「バーサはどうかな」
少年:なんとも言えない顔をする。
    「もっと他にはいないの」
青年:「ああ,もう一人いた」
少年:目を輝かす。
    「どんな名前」
青年:「グレタっていうんだ」
少年:げっそりした顔をする。

 細部は違うかもしれないが,大体こんなやりとりだった。バーサは Bertha (♀) グレタは Greta (♀) だろう。
 ただ,あまりにも語感が「婆さん」と「ぐれた(不良化した)」に似ていて,大笑いした(Bertha の ber 部分の発音記号はこんなの なので ba ではないが,カナ読みだとこう読むしかない)。
 吹き替え版を作る時,日本人の耳に合わせてセリフを変えたのではないか……と思えるが,真相は不明。しかし全く変更なしで「英語世界においても」「日本人の語感で聞いても」面白かったのだとしたら,ものすごい偶然だ。

Bertha
 ゲルマン語源で語意は bright 。
 もとは独立名ではなく,「bright の意を持つ要素を含む名前の短縮形」である。愛好された要素なので,原形は多数あったようだ。現代に伝えられたものもあれば,消滅したものもある。
 Bertha はカロリング朝時代に好まれた名で,シャルルマーニュ(カール大帝,742-814)の母も Bertha と呼ばれていた。Berthe aux grands pieds ,あるいは Bertha with the big feet という綽名で知られた人物であるそうだ。よほど並外れた大足だったらしい。

 ネットで見た系図学のページに「シャルルマーニュの母 Bertrada Broadfoot (of Laon) 」があった。彼女の本名は Bertrada で, Bertha は愛称だったのだろう。
 Bertrada の後半部分は多分 Albreda (♀)Conrad (♂) の後半と同系と見て良いはずだ。また Bertrade (♀)(古英語由来で bright-counsel の意)に対応する古代ドイツ語由来名だろうと思われる。

 Bertha はノルマン人に好まれたが,やがて廃れた。19世紀に古名の復活使用が流行した際に人気が回復したが,その後再び廃れ,流行遅れになった。第一次世界大戦で使われたドイツの大砲 Big Bertha により,Bertha のイメージが落ちたとGRS は書いている。
 前記のドラマのセリフが Bertha だったなら,「古めかしさ」に参る,といった場面だったのかもしれない。

◇Greta
 Margaret (♀)のスウェーデン語短縮形で,スウェーデン出身の女優「グレタ・ガルボ」(Greta Garbo)の名として広まった。この名には特に悪いイメージはないようだ。英語発音では re の部分にアクセントがある。つまり「グタ」である。ただし前述のドラマの吹き替えは,日本語の「ぐれた」と同じイントネーションで発音していた。笑いの場面のためにそうしたのかもしれない。

◇ Stephanie
 さて,このドラマはめでたく曲が完成して終わる。詞は最終的に「青い瞳のステファニー,なんたらかんたら」になっていた。多分この名は Stephanie と綴る名前だったろう。
 Stephanie (♀) は garland, crown の意を持つギリシャ語に由来する。綺麗な語意の名前だし,英語圏の人には語感が良いに違いない(この男性形が Stephan (♂) であるが,なぜか英語発音は「スティーヴン」となる)。

 しかし私は「スファニー」と聞くたびに「捨てる」を連想し,明治頃の「ステ」やら「捨吉」やらの日本名を想像してしまう。


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