ごく散漫な話
Charles, Caroline
1980年代前半頃だったと思う。J&S の人名辞典の巻末索引で
Athalaric (b) (Germanic) noble-ruler
という行を見つけた。Athalaric は EGW の辞典には載っていない。しかし Adelaide, Adeline の項で,古代ドイツ語 athal が英語の noble の意,と書いてあった。どう見ても Athalaric は athal に関係しそうな気がするし,athal は adel, al に変化することがあるようだから,Adelric という名もあるに違いないと考えた。
しかしその頃はまだ「インターネットで検索してみる」なんて状況になかった。というか,パソコンを使う日が来るとは夢にも思わなかった時分であった。あまりポピュラーでなさそうな名前を,なんのガイドもなく探すのは無理だろうと思い,諦めてしまった。
だが,それから大分時が経ったある日,電気屋のテレビにヨーロッパの風景が映っているのを見た。どうもナレーションの感じからいって教育系の番組のようだった。そして,墓地が映った。墓石に Adelric とあった。ものすごく驚いた。
今思い出すと,本当にそれが Adelric だったのか自信がないが,とにかくそう読み取って驚き,その後,墓碑を読みに外人墓地に出かけた。
外人墓地といえば普通デートコースで,男女二人連れも多く,一人で歩くのは侘しかった。また,幼い頃,土葬の墓地から出土した頭蓋骨を見た経験があるため,地面の下に思いをはせると怖くて仕方なかった。しかし我慢して墓標に目をこらして巡り歩いた。名前と没年だけメモして通り過ぎるのも悪いので,メモを取った墓の主には全部簡単に祈りを捧げた。
その時のメモがまだある。50名ほど記録したあたりでくたびれたようだ。墓碑はもっとたくさん読み取ったが,John や James とか,ポピュラーな人名の墓に関しては途中で放棄した記憶がある。比較的珍しいと思った人名は,特に別のページに書きこんであるものの,今見るとそんなに珍しくもなかったりして……。
さて,この50人ばかりの人名表の中に,なんと3回も Charles が出てくる。事情はよく知らないが,そこの外人墓地は保守やら整備のため,一定期間で公開コースを変えているようだった。ひょっとすると「特に Charles という人が密集して葬られているコース」を歩いた可能性もあるが,個人名の Charles 自体がもともと多いのだと推測していいような気がする。
Charles に関しては,『世界人名ものがたり』(梅田修・講談社)や『アメリカ人名辞典』(G.R.スチュアート・北星堂書店)に詳しい話が書いてあるので,そちらを見たほうが良いだろう。
人名辞典には書かれそうもない Charles 話が何かないかと考えて,『大草原の小さな家』(ローラ・ワイルダー原作のTVシリーズ)を思い出した。
ネット情報によれば,主人公ローラ(Laura) の父は Charles, 母は Caroline である。これは少し面白い。実は Charles も Caroline も同語源だからである。また,ローラの下の妹が Carrie (Caroline の愛称形)と名づけられている。
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