■Marilla
欧米ではどうだか知らないが,日本で「マリラ」と言えば「赤毛のアン」シリーズに登場する老婦人の名前として有名である。最近の命名本によれば Mary (♀) の変形となっているが,比較的マトモ系の辞典には載っていないため,断定するには不安が残る。
◇合成名説
『外国人の姓名』(著・島田修二/帝国地方行政学会 K.K. 発行)に,「洗礼名と中間名を圧縮合成し,新造名をこしらえる事例」に触れた箇所がある。そこに,
Mary Isabella =Mari +Lla =Marilla
という例が載っていた。合成の素材は,Mar(i)- を語頭に持つ名,-lla を語尾に持つ名のどれでも問題ないだろう。納得できる説明である。
GRS が著書『アメリカ人名事典』の中で,「Elizabeth Mary の名を持つ母が,二つの名を合成して娘を Elma と名づけた」記録について触れている。これは1842年の事例だった。19世紀にすでにそういう造名があった(許容される時代であった)なら,モンゴメリの「マリラ」も合成名だった可能性がある。
◇怪しい珍説
独和辞典を見ていて,Marille (アンズ)を見つけた。オーストリア地域のドイツ語のようだ。発音記号によれば「マリラ」と読むらしい。
Marille を英語名風にして,Marilla だったらいいな……だとすればすごく愛らしいし……と思うのだが,ぜんぜん裏付けがない。
◇おまけ
『赤毛のアン』が世界各国で有名であるからには,生まれたばかりの女の子に Marilla とつけるのに抵抗を感じないだろうか,という気はする。恋人と喧嘩したあげく一生独身で過ごしそうだし……。
Marilla は多分非常に有名な名前であるが,実際の使用例は少ないか,ごく稀だと思われる。この名で独立項目を立てて詳しく記述してある人名辞典は,今のところ見たことがない。
しかしアンシリーズの登場人物だからだろう,『固有名詞英語発音辞典』には Marilla がちゃんと収録されている。 日本では「マ」を一番高く読むが,英語発音では「マリラ」と,中間にアクセントがある。
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