奇妙な黄昏 2024-

調布駅南口のアオギリ

 昔,調布駅前のグリーンホール入り口近くに,アオギリの古木があった。
 私は二十代後半まで調布駅を最寄り駅として暮らしたので,その木を良く目にした。
 少し奇妙なたたずまいの木で,童話なら夜中に喋ったり歩いたりしそうだなと,子供の頃に妄想したものだ。
「何か言いたいことがあるが黙り込んでいる頑固親父」が腕組みしているように見えたから。

 2011年11月,感傷的な気分になり,調布駅前を散策してガラケーで写真を撮った。
 今見るととても画質が悪い。
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 そして2022年4月にもう一度この木をスマホで撮影した。
 柵で囲まれ,支柱で補強されていた。
 木が痩せ細り,樹皮がささくれて傷んでいるように見えた。


 この木は検索によれば2024年12月2日に伐採されている。
 空洞化が進み倒木の危険性が高いと自治体が判断したためだ。
 確かに伐採時の画像を見ると内部がスカスカで,もし支柱がなければ強風で倒れても不思議はないように感じた。 

 調布駅は再開発によりすっかり様変わりした。しかし私は昔の景色が好きだった。
 南口には噴水があってほしいし,クスノキの並木があってほしいし,タコ公園があってほしい。
 宮田家具店もあってほしい。調布公民館もあってほしい。公民館の脇を通り過ぎて左折したら,古びた調布市立中央図書館があってほしい。
 南口の前の道路には客待ちの京王タクシーが停まっていてほしいし,タクシーの塗装はオレンジと黄色であってほしい。
 南口と北口を結ぶ地下道は,とてつもなく天井が低いものであってほしい。

 記憶の中にしかない景色。
 アオギリの木もとうとうその中に引っ越してしまった。


 ところで「昔 調布」等で画像検索してみたら,このアオギリの木の逸話をとりあげたページがヒットした。
 この木は「英霊の木」と呼ばれていたようだ。
 日露戦争で戦死した兵士の遺骨のかわりにアオギリを持ち帰り植樹した,という口頭伝承があり,それが2018年頃テレビ番組で紹介され,以来有名になったらしい。
 だが学生時代のほとんどを調布で過ごしていた私も「英霊の木」の話は超・初耳だった。
 なにかタイミングが悪くて知り損ねていたのかもしれない。

 英霊か。
 子供の頃,あの木に「人間的なもの」を感じたのはそのせいだったのだろうか。

[記] 2025/9/15

奇妙な黄昏 2012-2021

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