奇妙な黄昏/過去ログ

ツバメを拾った話 ---[記録] 2015/4/29

 出勤前に勤務先のロッカーの鍵があるかどうか確認した。普段バッグの中の小さなポケットに入れておくが,前日バッグが横倒しになった時にポケットからこぼれてしまったらしい。バッグの中身を取り出し,底の方から鍵を見つけ,取り出したものを入れ直して出勤した。

 入れ直したと思った。
 しかしその時財布を入れ忘れていたのだった。

 勤め先の最寄り駅に着いて,Pasmo にチャージしておこうかとバッグのファスナーを開けたところ,財布がない。
「家に置き忘れただけ」だとは思った。
 しかし考えてみると出勤前にバッグ内の整理をした時に「財布を見た記憶」がない。財布を最後に見た記憶は前夜100円ショップで膝下ストッキングを買った時だ。その時バッグのファスナーを閉めた。
 その後バッグから水筒を出して水を何度か飲んだ。水筒を出す時に財布を落としたらいくらなんでも気づくだろうが……しかし家の外で落とした可能性もある。

 財布にはキャッシュカード・クレジットカード・保険証・住基カード等を入れてあるので,外で失くしていた場合は諸手続きで大事だ。
 家に置き忘れた可能性9割,外で失くした可能性1割。
 9割に賭けてこのまま出勤し,夜8時まで勤務するか? (遅番勤務なので11時~8時勤務)
 帰宅は10時近くになる。もし家の中で財布が見つからなかったら?
 翌日 (4月29日)は祝日だ。カード停止の手続きが平日より困難かもしれない。

 勤め先に遅刻すると電話して ,家に引き返すことにした。

 JR南武線・登戸駅に着いたのが11時少し前だった。この駅の改札口付近は,今の季節ツバメが飛んでいることが多い。自動改札目指して歩いていたが,軽やかに飛ぶツバメが目に入った。
 が,なんとそのツバメがガラス窓にぶつかった!
 そして物体として落ちた,ように見えた。私は視力も動体視力も激悪なので,途中で見失った。

 床を見たら自動改札入り口手前にツバメが落ちている。
 慌てて拾った。死んでいたとしても,下を見ていない人に踏まれるのは気の毒だ。
 拾い上げて脇に避け,(幸いに左端近くの改札で避け易かった)手に載せたツバメを確認した。
 ほとんど重みを感じないほど軽く,柔らかい。
 まだ生きていたが呼吸は荒く,人の手の上で身動きもできない様子だ。
 黒く丸い目が愛らしく,何かできるならしてやりたいが,私にはどうにもできない。

 改札の柵の上にそっと載せた。
「ガラスにぶつかったスズメがしばらくして飛んでいった」という話を読んだことがある。
 もしかしたらこのツバメも回復するかもしれない。
 再出勤の時にまたこの改札を通るが,その時柵の上で死んでいたらどこかに埋めてやろうと思いつつ,改札を抜けた。

 そして登戸から小田急線に乗り換え,家に戻って財布を確認。やっぱり入れ忘れただけだった。
 とんぼ返りで再出勤し,JR登戸駅の改札に着いたのが12時頃。
 改札の柵の上を見たが――ツバメはいなかった。
 清掃の人が回収したのか,回復して飛び去ったのかは不明。

 勤務を終え,夜9時少し前に登戸駅の改札を出た。
 改札前の通路と接するスーパーで買い物をした後,入り口付近から通路の天井(梁のような部分)を見上げた。
 そこはツバメのねぐらになっていて,ツバメの腹から尾っぽ部分だけが見える。頭隠して尻隠さず状態のツバメが3羽ほど寝ているようだ。

 あの中に拾ったツバメがいるといいが。
 でも生きていたら人間の匂いをつけてしまった。
 人間的にはもの凄く暑い時間帯だったが,ツバメにとって金属製の柵の上は冷たかったかもしれない。
 寒い思いをさせて殺しただけかもしれない。

 いろいろ考えながら家に戻った。


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