■ホタルブクロの花が咲く時 ---[記録] 2021/8/15
6月半ばの夜,通勤路で咲いているホタルブクロを見つけた。私の住んでいる団地は多摩の里山を整地して造成されたものなので,周辺の道路脇の法面に今でも野草が多い。
この花も団地内の道路脇,かなり傾斜がある場所にあって,しかも梅雨時で土が滑りやすく撮影に苦労した。またスマホを機種変して日が浅く,カメラに慣れていなかったので,あまり綺麗に撮れなかった。何枚もピンボケしたうちで,下の写真が唯一「比較的まとも」に撮れただけだった。
そこで翌朝,出勤前にもう一度同じ花を撮影しに行った。雲は多かったが日差しがあったので前夜よりマシに撮れた。
スマホのデータを見るとこの2枚はそれぞれ「6月17日19時43分」と「6月18日8時8分」に撮影されている。
見比べると朝の写真では一つのつぼみが咲きそうになっているのがわかる。夜から朝までの約12時間でここまでつぼみが膨らんだのだ。
膨らみ具合がとても可愛らしい。
あと少し待っていれば咲きそう。仕事をバッくれて開花を見ていたい。
……などと一瞬思ったが,もちろん普通に出勤して仕事した。
その日の帰り,もう一度同じ花を見に行こうかと迷ったものの,週5日勤務の最終日で疲れ切っていて,心の中で開花を想像して満足することにした。
ホタルブクロの花が昔から好きだった。子供の頃に父と美ヶ原を散策し,テレビ塔の周りでホタルブクロの群生を見た思い出があるからかもしれない。1970~72年頃だった。
かなり色の濃い花だった記憶があるので,多分ヤマホタルブクロだったと思われる。
今考えてみると,「ん~? 電波塔の周りに雑草が盛大に繁茂しているのはまずくないか? もしかして草刈りを怠った結果か」と思わないこともないが,管理人がホタルブクロが好きでわざわざ残していたとか妄想できないこともない。
父はあの時安物のカメラでホタルブクロの花を写していた。
シャッターを押すだけしかできないコンパクトカメラで,撮った写真が正方形に仕上がるという変わった商品だった。
しかもその時入れていたのが白黒フィルムだったから,花はグレーにしか映らなかった。
その美ヶ原散策の時,父は「昔の美ヶ原のお花畑は本当に綺麗だった,今はすっかり花も減ってしまった」とか「友人と一緒に美ヶ原を歩いていたら,凄い雷が鳴りだしたので,全員で必死に走って避難した」とか語っていた。
父のその思い出は多分1955年頃の話だ。
父が死んで23年経過したが,私はその昔話を覚えているし,痴呆になるまで忘れないような気がする。
でも私には家族がいないので,思い出を語っても誰も覚えていてくれない。
なんとなく腹が立つのでちらっと語っておこうと思う。
「昔,美ヶ原のテレビ塔の周りにホタルブクロの群落があり,赤紫の花が鈴なり状態で盛大に咲いていた」
でも,独りだといいこともある。
誰も悲しませずに死んでいける。
置いていく者の行く末を心配して発狂しそうな程の嘆きに心を苛まれることもない。
それは幸せなことだ。
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