奇妙な黄昏/過去ログ

ラーメン屋の白菊 ---[記録] 2015/9/27

 ネットで「福助」という文字を見て,ふと思い出した。
 昔,「福助作りの菊」を「肉まん」だと見誤ったことがある。

 福助作りとは大輪菊を一本仕立てにし,茎丈を低く押さえて花を咲かせる栽培法だ。仕上がりは「福助人形」を連想させるフォルム――つまり頭でっかちになる。
 丈を伸ばさないために定期的に矮化剤を使用するなど,手間ひまかかる作り方らしい。

 ある日通勤途中,小さなラーメン屋の前を通りかかった。店の前にガラスケースがあり,中に数種類のラーメンの食品サンプルが飾られている。
 そしてケースの左端に,白い肉まんの模型が浮いている……ように見えた。

 しかし近づいてみると,それは福助作りにした白い大輪菊の鉢植えだった。
 私は目が悪く,植木鉢がドンブリに隠れていたため,白い丸い物体だけが空中に浮かんでいるように見えてしまったのである。そしてそれを,「ラーメン屋のショーウィンドーに相応しいもの」と考え,「肉まんの食品サンプルだろう」と決め付けてしまったのだ。

 その福助作りの白菊は,丈が30センチ,花の直径は15センチくらいだった。店主か店主の知り合いか,とにかく誰かが長い間丹精して綺麗に咲かせたものだっただろう。
 そしてその作品をウィンドーの片隅に飾った。
 それを勝手に肉まん模型に誤認してしまい,申し訳ない気分で一杯だった。

 来年見かけたら最初から白い菊だと思わなくては。

 と思っていたものの,会社を退職してその通勤路と縁が切れてしまった。またその後,駅前再開発で小さな商店が立ち退かされ,ビルだらけの風景になったと噂で聞いた。

 素焼き鉢に植えられた菊を食品サンプルの横に並べるとは,かなり場違いな披露だと思う。
 花瓶に挿した切花ならアリだろうが,「むき出しの植木鉢=土で汚れたもの=不潔」であるからだ。

 しかし福助作りの場合,丈を低くして作ったことが重要なので,切花にはできなかった。切花にすれば普通の大輪菊を切ったものと見分けがつかなくなる。
 あくまで福助作りにした菊を見て欲しかった。だから食品サンプルの脇に鉢を置くという奇妙な展示をしてまで,自慢の一鉢を多くの人に見てもらいたかった――のではないかと思う。

 30年前は個人の趣味のアートを陳列する場なんてほとんどなかったからなぁ。
 園芸サークルに入ってグループで公民館の一室を借り,展示会を開く程度が関の山だったと思う。

 今,あの店があったら,店主が「ケースに白の福助飾りました~。福助ともども皆様のご来店をお待ちしています! ○○軒をよろしく」――とブログに画像をUPしていたかもしれない。
 
 情報発信の手段が一般人にも与えられた今の時代は,恵まれているなと感じる。

黄昏のポプリ

奇妙なポプリ

Copyright (C) 2015-2022 S. Sonohara, All rights reserved.