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最近空目が多くって

St. Cyr (Cyricus, Cyriacus)


 私は素で老眼らしいが,近視でもあるので,至近距離は見える。近視矯正用の眼鏡をかけるとかえって手元が見えない。50センチ以上離れているもの,例えばパソコン画面を見る時には眼鏡を使いたいが,手に持った辞書を読むときは眼鏡をはずさないと視界がぼやける。

 しかし頻繁に眼鏡を着脱するのは面倒だし,安物の眼鏡のフレームが傷みそうだから,眼鏡をしたまま近距離で細かい字を見てしまうことも多い。そして今日,
 Child on bear という文字列を見たような気がした。
 何それ金太郎?
 と思ったが,よく見たら
 Child on boar だった。

 おや違ったわ。もののけ姫的な何かだわ。て,そんなことあるわけない。
 読んでいるのは The Oxford Dictionary of Saints なんだから。

 脳内で空しく自己完結した後で,Child on boar を PRINCIPAL ICONOGRAPHICAL EMBLEM とする聖人,Cyricus の項目を読んでみた。母の Julitta と一緒に殉教した幼児の聖人なので,項目名は Cyricus and Julitta だった。異名が多い聖人で,Cyriacus, Quiriac, Quiricus, Cyr と様々に綴られるらしい。細かい字の英文を我慢して読むと,シャルルマーニュの伝説について書かれている部分があった。

 シャルルマーニュはある時,イノシシに殺されそうになる夢を見る。しかし夢の中に子供が現れ,「服をくれたらイノシシから助けてあげるよ」と言った。そしてシャルルマーニュはイノシシから救われた。(服を与えると答えたのだろう)
 ヌヴェールの司教はシャルルマーニュから夢の内容を聞くと,こう解釈した。
「聖シル (St. Cyr) が大聖堂の屋根の葺き替えを欲しているに違いありません」

 霊感商法だな。

 それ以後,4世紀の幼児聖人 Cyr (Cyricus, Cyriacus, Quiriac, Quiricus) の象徴が「イノシシに乗った裸の子供」になったという。

 EGW によるとこの幼児聖人 St. Cyr に由来する英語名が Cyriack (♂) 。語源はギリシャ語 κυριακός (kyriakos) で,語意は lordly と書かれている。lordly の語意には「君主 (貴族) の」「君主 (貴族) にふさわしい堂々とした」「横柄な,偉ぶった」等がある。
 Cyriacus に関しては書かれていないので不明だが,綴りから見て無関係ではないだろう。


 このあたりまでは手持ちの本で確認したが,その後でネットを検索してみた。以下はネット情報。

ギリシャのサッカー選手キリアコス (Kyriakos / Κυριάκος)・パパドプーロスの名を発見した。彼の名は古代ギリシャ語 κυριακός に関係がありそうだが,アクセントの位置が違う……。

イギリスのアニメーター Cyriak Harris (スィリアック・ハリス) を発見した。彼の名は Cyriack の変形に見える。

Cyriacus (キリアクス,キュリアコス) は殉教幼児の他にも数人存在する。ただ聖ウルスラ (St. Ursula) と関わったエピソードで知られるローマ教皇 Cyriacus は有名だが実在しない人物だった。そもそも「1万1千人の処女と一緒に殉教した聖ウルスラ」が伝説中の存在だった。

殉教母子聖人 Cyricus and Julitta の英語表記は Quiricus and Julietta もある。イタリア表記では Quirico e Giulitta となる。Wikipedia で言語を切り替えていくとその国の表記が出て便利だが,フランス語版は Cyr de Tarse のページにリンクしていて母親の影がない。手持ちの事典の参考文献の欄を参考に Saint Cyr et Sainte Julitte を検索してみると,それらしきページがヒットし,Cathédrale Saint-Cyr-et-Sainte-Julitte de Nevers を発見した。日本語表記だとサン・シール・エ・サント・ジュリット大聖堂になるらしい。

フランスの地名 San-Cyr (サン・シール) には Cyr de Tarse 由来のものがあるらしい。またフランスでは「サン・シール」が「サン・シール陸軍士官学校」の通称となっているようだ。この学校はすごく有名らしい。


 実のところ一番知りたかったのは,「シャルルマーニュがただちに屋根を葺き替えたのか」どうか,だったのだが,その点はわからなかった。

 疲れたので最後に Iconographical emblem Cyricus で検索してみた。
 すると上から一番目に Cyricus and Julitta というページが出てきて,手持ちの事典と全く同じ文章が載っているので驚いた。多分事典の権利者が契約しているのだろうが,これでは本や電子書籍が売れなくなるけどいいんだろうかと思いつつ,検索結果2番目のページも見てみた。やはりほぼ同一の内容が表示される。

 ということは The Oxford Dictionary of Saints はネットで全部閲覧できる?
 表示を200%とかにして大きな字で見ることも可能だったんだ。
 うわぁ。さっき細かい字を苦労して見たのは何だったんだ。

 色々とショックで,ページを閉じてしまい,また開き直そうとして手が滑り,ページを訳してしまった。
 せっかく開いたので一応目を通した。すると,

 クラブクリストファー
 巨根ピーター、ヴィート

 という文字列が見えた。
 大いに驚き,また空目かと思って見直したが,今度は空目ではなかった。

 原語を確認したら,

 Club Christopher
 Cock Peter Vitus

 だった。

 なぜ Cock が真っ先に巨根と訳される。(プリントスクリーンの一部)
 「雄鶏」か「栓」にしてよ。
 聖ペテロと雄鶏は例の「三回鳴く前に~」のエピソードによるリンクだろうに台無しだ。
 それになぜ「大きい」と決め付けて訳すんだ?
 小さいかもしれないじゃないか。

 Google 翻訳にツッコミを入れている自分が情けなくなったので,ブラウザを閉じた。

[記] 2013/11/22


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