いつでも疑うこと
何冊か人名辞典を照らし合わせて見ればわかることだが,語源が確定している人名ですら,解説文には著者の私意が入る。
語源不祥で多数の説がある場合,最終的に「どの説を入れてどの説を切るか」を決めるのは著者である。
「この著者はこの辞典を参考文献としていながら,この説を自分の辞典には採用しなかったのだ」
といった「著者の私見・私意」を知るためには,可能な限り複数の資料・辞典に目を通すことが望ましい。
しかし私はただの素人なので,そこまで突っ込んだ作業ができない。せいぜい数冊の書籍と各国語辞典を見てデータを作るのが精一杯だ。
また,データを作成する際に,私自身の「私見」も入ってしまう。研究家AとBの解説が違う時,2説を併記することもあるが,どちらかを捨てる時もある。
だからサイト名を「さらに怪しい人名辞典」とした。
さて先日,とある本を買い,ざっと目を通した。立派な出版社から出た「人名の語源を解説した新書」である。13刷も刷られたのだから結構売れている本なのであろう。
いかにももっともらしい,信用できそうな体裁なのだが,あちこちに誤記としか思えない部分がある。
Audrey が「高貴」と「輝かしい」という二つの意味をあわせもつ……?
これは Etheldreda と Ethelberta を混同しているのではないか?
Osborn が「神の誕生」という意味……?
と巻末の大索引に書いておいて,本文では
「熊をあらわすことば『ボーン』を組み合わせて Osborn 」
などと書いてある。
英語名らしい Jasmine のカナ読みが「シャスミン」……?
10分ほど読んだだけでじっくり読む気力がなくなり,放り出してしまった。この調子だとどんな「トンデモ情報」が紛れこんでいるか恐ろしい。
まともな出版社が出したまともそうな本にも,疑わしい記述は存在する。
本を読む時,ネットでデータを入手する時,その情報を頭から信じ込まないことだ。
また,一つの情報を手に入れただけで全部を知った気にならないことだ。
[記/2007.9.15]
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