■Helmut
H&H はゲルマン語の要素 helm-muot (語意 helm-spirit(courage)) が語源だとしている。語意は直訳すれば「兜」-「精神(勇気)」。
一方,『ヨーロッパ語源人名事典』には,ドイツ語名 Hildemut の変形で,語意は「戦闘」+「心,気」,総合すると「戦意」である,という意味のことが書いてある。
両者の語源説が異なるのは,研究家がどこで綴りを切って判断したかの違いだと思われる。
H&H はゲルマン語の要素 helm-muot → Helmut (重なったMは省略された)という説を採ったのだろうし,『ヨーロッパ人名語源事典』の著者は古代高地ドイツ語
hildi-muot のhildi- が Hel- に,muot が -mut へと変遷したという説を採ったのだろう。
ABC順テキストの説明欄では,とりあえずH&H の説に従った。
H&H によると,helm, mout は早くから他のゲルマン語名で人名要素として使われていたが,helm-mout の組み合わせに限っては中世後期まで使用例が見当たらないように見える,そうだ。
しかしそれ以後 Helmut はドイツで非常に有名になって個人名使用が広がった,らしい。
Helmut がなぜ人気名になったのかはわからないが,おそらく同名の有名人が出たのだろう。H&H は Helmut の変形として Helmuth の綴りを記載しているのだが,「モリエール」を手持ちの『広辞苑』(第二版)で調べた時に
モルトケ【Helmuth, Graf von Moltke】プロイセンの軍人,元帥。(中略)ドイツ帝国の統一に貢献(1800~1891)
という箇所がたまたま目についた。
モルトケ元帥も Helmut の人気をいくらか高めたりしなかったか,と妄想が湧くが,そのへん不明。
H&H 説の「兜」-「精神(勇気)」でも,『ヨーロッパ人名語源事典』の「戦意」でも,元帥には非常にふさわしい名前なので,なんとなく嬉しい気がする。
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